ほとんどすべての人が虐待をしたことがあるって気付いた。子供も大人も。「個性」を求めるために。
可能性や選択肢を示さないことが
虐待
なんだね。
殴ったり蹴ったり閉じ込めたりは物理的な部分が目に付くけど、つまりは「オレの言うこと聞けっっっ!!!」っていう選択肢の限定。
おまえの考えること、やることなんて大した価値はないんだから、とその振り上げた腕で語ってる。
そして、実は社会全体でそれをやってる。
コント:虐待と「個性」、その先に……?
かのダルマ師匠と弟子が居間で話している・・・・
ダルマ師匠
いいか! ちゃんと勉強しとかないと、会社に就職しようってときにも不利だし、
これからもっと流行ってくる起業だのフリーランスだのでも、結局は能力を売ってるんだからな! 負け犬になるぞっっっ!!!
弟子
し、師匠……! 突然なんですか?!?!
ダルマ師匠
おまえがやる気ないからはっぱかけてんだ、おら。
勉強しろ、勉強!!!!
弟子
やってますよ! ボクは学校でも成績いいほうです。
ダルマ師匠
成績だぁ??? ふざけてんのか???
いつの時代の話をしてやがる!!
これからはなあ、個性だ! 個性が求められんだぞ! おまえになんか個性あんのか??? あ? 成績がいいって? それが個性なんかっ?!
弟子
べつに成績だけじゃないですよ、ボクはサッカーだってやってるし、音楽も、ドラムやってるんですよ。
しかも叩きながら歌うっていうのも最近練習してます! なかなか難しくって!
ダルマ師匠
どこまでもバカだなおまえは!! サッカーやってるやつもドラムやってるやつも、いくらでもいるだろうが!!!??
それでなんだ? サッカーしながらドラムでも叩くってか?? んなこと出来たら
天才
ってしばらくの間は言われるだろうな、みんなが忘れるまでよ。
弟子
ひ、ひどい……。ボクだって本気でやってるのに。
じゃあどうすればいいんですか! やっぱり勉強なんですか? なんだかんだ言って学歴ですか!!!?
ちょっと師匠の様子が変わる
ダルマ師匠
たまんねえな、そこまでアホだとよお……自分でも頭ん中がくすぐったくねえか?? こちょばしくねえか? ああ???
おまえが勉強してどこまで行けるんだ? 東大か? ハーバードか? オックスフォードか???
弟子
いや、そんなレベルは……。でも、ボクじゃなくったってそのレベルに行ける人はいっぱいいるでしょ!
そういう人たちはそういう個性があるってことですか??
ダルマ師匠は泣き出した。らんらんとした両目から大粒の涙が流れて落ちる。
なみダルマ師匠
それがおめえのいう「個性」なのか? 本気で言ってるのか?? そうなんだな??
……わしがおまえに教えることはこれ以上ねえようだ……。
弟子
待ってください、師匠! どうして……どうして泣いてるんですか??
だって、だって個性って、自分がどんなチカラや能力があるかでしょう?
学力とかスポーツ力に限らなくていいと思いますけど、あとは性格が面白いとか、あとは……背が高いとか太ってるとか……?
ダルマ師匠はベロでほっぺの涙をぺろりとぬぐい取った。
ダルマ師匠
おまえ……
弟子
あ、あと、どんな風にこれまで生きてきたかとか、経歴、その人の人生!!
これは明らかに個性ですよね! 誰ともかぶることはないんだから!
ダルマ師匠はしばらく黙っていた
そしてコントを忘れた師匠
素のダルマ師匠
……そんなもんが個性だったら、わしらは全員いなくなっちまったほうがいいわい。
弟子
え……、いなくなる……?
ダルマ師匠
そうやって説明できるものだけがわしらの個性だったらばな、そんなもんは機械と同じだろうが!!! スペックがどうこうとかどんな場面で役立つとかな!!!
そんなんならAIにこの世界を譲った方がいい!
領土のために殺し合う人間よりよっぽど合理的に考えてこの地球で過ごしてくれるだろうよっ!!!
弟子
そんな、そんなわけにいきませんよ!
だって、ボクたちはAIを生み出した人間なんですよ?? その人間がAIに座席を譲るなんて……!
ダルマ師匠
わしはそこの話をしとるんだ。
AIを生み出したそういう人間が、人間として存在しているのはどうしてなのか???
極貧から昇りつめた人生をそれぞれが生きてるからか?
サッカーをがんばってるからか??
週末は友だちを酒を酌み交わすからか?
そんなところに人間の根っこがあるんか?? 個性があるんか???
弟子
それは……ていうか、師匠の話で思ったんですけど、
サッカーとかドラムっていうのは、それがあるからボクなんじゃなくて、ボクが興味を持って手に取ったということですね。
順番が逆だ。
ダルマ師匠
そりゃそうだ、人間がいなきゃサッカーなんてないんだからな。
弟子は考えこんだ
弟子
いや、でも、ただ生まれて死ぬなんて、そんなの人間っていえるのか……?
ダルマ師匠
そのくらい、おまえは何もわかっちゃいない、見ちゃいないってことだろうがっっっっ!!!
よく見ろ! 犬が鳥が魚が「ただ生きてる」のかっっ?!?! そこに価値はないってか??
んなことなら、当然自分らもそういう目で測ることになるだろうよ。
学歴だか歌のうまさだかキャラのよさだか何だか知らねえが!
弟子
そういうなんかが「なきゃダメだ」ってことだ。何にもない自分はダメだってことだ……。
ダルマ師匠
いいか? そういう考え方がある限りな、
どんだけ成功しようが、人類初の快挙を成し遂げようが、どれだけ尊敬を集めようが、フォロワー数を稼ごうが、みんな同じ領域の話だぞ。
そういう自分の持ってるものがなくなったら「ダメなおめえ」だ。
運が良かったら手放す前におっ死ぬだろうな。
そんでおっ死んでサヨナラだあ。
弟子
で、でも、夢や目標を持てってずっと言われてきたし……。
現状にとらわれない偉大な目標があったからこそ、人類は月へも行けたんですよね。
ただぼんやりしてたらそんなことできなかったっっ!!!
ダルマ師匠
おめえは月へ行きたいのか??
弟子
い、いや……。
ダルマ師匠
夢や目標を持つのも見事なことだ。
だがな、その入り口が何かを埋めるような気持ちだったとすれば、どういう世界ができてくるかはわかるな??
どんな人間が形作られてくるか?
わしらをそういう方向へ駆り立ててるのもわしら自身だ。
そこにみんなで気付くかだあぁな。
ダルマ師匠は席を立った。
弟子はオチのないコントに腹の座りが悪かったが、何も考えられなくなって座布団にちょこんと座っていた。
弟子
(けどおいらは人間じゃない、んだよな……)
※達磨大師のキャラクターは架空のものです。
終幕
てなわけです。
・・・・・・・・・・え?
これはコントなのかって??
そ、そんなふうに、なんでも何かに当てはめようとする心が・・・・・・・
(ぬるめの風と共におわり)